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高橋 芳浩*; 府金 賢*; 今川 良*; 大脇 章弘*; 平尾 敏雄; 小野田 忍; 大島 武
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 7, 2008/11
MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造の重イオン照射誘起ゲート電流の線照射による変化について評価を行った。試料はp形及びn形バルクSi基板上の、酸化膜厚100nm,Alゲート電極直径100mのMOSキャパシタとした。線照射は吸収線量率6.3kGy(SiO)/hで1時間行った。照射前後のイオン照射誘起ゲート過渡電流の測定は、酸素イオン(15MeV)を用いたTIBIC(Transient Ion Beam Induced Current)評価システムにより行った。また、線照射前後において容量-電圧特性及びリーク電流特性の測定を行った。その結果、線照射後、同一電圧印加時のゲート過渡電流ピーク値は、p-MOSにおいて増加し、n-MOSでは減少した。さらに容量-電圧特性で生じた変化を正電荷捕獲密度を反映したミッドギャップ電圧のシフト量で評価し、そのシフト量分、ゲート印加電圧値をシフトさせた結果、照射前後でのピーク値はよく一致することが判明し、ピークのシフトが正の固定電荷発生によることが明らかとなった。
新藤 浩之*; 緑川 正彦*; 佐藤 洋平*; 久保山 智司*; 平尾 敏雄; 大島 武
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 5, 2008/11
活性層が薄くイオン入射に伴い発生する電子・正孔対の総量を抑制することができるため、耐放射線性半導体素子として期待される0.15mFD-SOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)上に作製した、FPGA(Field Programmable Gate Array)要素回路の放射線耐性評価をAr 150MeV(LET: 15.1/(mg/cm)), Kr 322MeV(LET: 37.9/(mg/cm)), Xe 454MeV(LET: 60.6/(mg/cm))を用いて実施した。その結果、FPGAを構成する基本回路の一つであるConfiguration bitのSEUの発生要因として、OFF状態のトランジスタが一つだけ反転することでSETが発生するSTG(Single transient gate)モードと高LET粒子が冗長トランジスタを同時に駆動してしまうDH(Duble Hit)モードの2種類があることがわかった。さらにSEU反転断面積とLETとの関係において、STGモードではLETが40MeV/(mg/cm)以下でエラー発生が観測されないこと、一方DHモードではLETが60MeV/(mg/cm)以下でエラー発生が観測されない結果を得た。この結果は、従来のバルクシリコンで得られている閾値LET(LET:15.1/(mg/cm))と比較して2.64.5倍も耐性が向上されている。さらにこの結果から、FPGA回路に対する耐SEUを改善するために必要なパラメータの取得ができた。
平尾 敏雄; 小野田 忍; 高橋 芳浩*; 大島 武
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 6, 2008/11
酸化膜を介した照射誘起電流の発生機構解明を目的に、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)へ重イオン照射を実施した。試料はバルクシリコンAlゲートp-及びn-channel MOSFET(酸化膜厚=40nm, ゲート幅=100mm, ゲート長=300m)を用い、15MeV酸素イオンを照射した。イオン照射誘起電流をTIBIC(Transient Ion Beam Induced Current)測定装置を用いて評価したところ、MOSキャパシタでは、印加電圧の増加に伴い、過渡電流のピーク値が直線的に増加することがわかった。さらに、照射後12ns程度に酸化膜に印加した電界方向の鋭い電流ピークが、その後反対方向に小さな電流がそれぞれ観測された。結果に対し、酸化膜を完全絶縁と仮定して発生した誘起電流をキャリア濃度及び移動度を主パラメータとして数値シミュレーションを行った結果、MOSFETのゲート領域に重イオンを照射した際に観測される照射後12ns程度経過後の鋭いピークとその後の反対方向のブロードな電流ピークをシミュレーションにより得ることに成功し、実験結果との良い一致を図ることができた。
須郷 由美; 田口 光正; 永石 隆二; 佐々木 祐二; 広田 耕一; 木村 貴海
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 161, 2008/11
マイナーアクチノイド分離用抽出剤TODGAへの線による放射線分解特性を調べる目的で、TODGAを溶解したドデカン溶液に、高崎量子応用研究所イオン照射研究施設のAVFサイクロトロンから生じるHeイオンビームを深度制御種子照射装置(HY1)を用いて垂直方向にスキャン照射した。照射後試料をガスクロマトグラフ質量分析装置で分析し、分解生成物の種類や収量を線の照射実験の結果と比較した。その結果、線照射に比べHeイオンの照射では吸収線量の増加に伴うTODGAの分解率の変化が小さく、線照射ではドデカン中のTODGAの分解が抑えられることがわかった。これは、LETの高い線の照射では、局所的に活性種が生成するため、溶媒による間接効果の影響が小さくなるためであると考えられる。
永石 隆二; 山田 禮司; 熊谷 友多; 須郷 由美
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 160, 2008/11
酸化物材料の共存する水溶液,有機溶媒と水溶液の二相系といった互いに混じり合わない非均質系での放射線誘起反応の研究として、平成19年度は水溶液中の金属イオン還元や水素発生の促進に関与する酸化物粉末の放射線誘起の初期過程、並びにアミド系抽出剤の分解の線質効果を明らかにするための研究に着手した。ここで、シリカコロイドを含んだ水溶液中の6価クロムイオンの還元に関する研究では、シリカコロイドと水由来の酸化性ラジカルとの相互作用によって6価クロムの還元が促進することが示唆された。さらに、アルミナ粉末を添加した水溶液からの水素発生に関する研究では、酸化物添加による水素発生の促進作用が酸化物の種類や量だけではなく、酸化物の結晶構造にも依存することを明らかにした。
伊藤 考太郎*; 武市 順也*; 半谷 吉識*; 佐藤 勝也; 長谷 純宏; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 86, 2008/11
オロチジン5'-リン酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子の欠損変異株は、麹菌の形質転換系の宿主として使用されている。この欠損変異株はウラシル要求性であり、ウラシルの基質アナログである5-フルオロオロト酸(5FOA)に耐性を示す。遺伝子操作を行わずに従来の変異原処理によって、麹菌RIB40株から欠損変異株を取得することは困難である。本研究では、イオンビーム照射によって麹菌RIB40株の欠損変異株を取得することを試みた。その結果、照射した分生子から5FOA耐性でウラシル要求性を示す株を25株分離した。これらのうち、13株が欠損変異体であり、残りの12株はピリミジン生合成経路でオロチジン5'-リン酸脱炭酸酵素の上流で機能するオロチジン酸ホスホリボシル転移酵素をコードする遺伝子の欠損変異体であった。イオンビーム照射は、従来の変異原処理では取得することが困難な新規変異体を作出するための強力なツールである。
酒井 和哉*; 小林 弘幸*; 清水 仁聡*; 大島 章夫*; 加藤 重昭*; 佐藤 勝也; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 85, 2008/11
接合菌の一種であるが菌体外に分泌する凝乳酵素(乳蛋白質の特定部分を分解するプロテアーゼの一種)はチーズ製造に広く使用されている。しかし、は凝乳酵素を大量に生産する一方で異なる部位を分解するプロテアーゼ,油脂分解酵素のリパーゼ、及びアミラーゼなどチーズ製造には好ましくない少量の酵素を生産する。本研究では、イオンビームを用いた突然変異育種によって、このような夾雑酵素活性がない変異株を作出することである。オリーブ油を加えた寒天培地上に形成されるハロウを指標に、2株のリパーゼ低生産変異株を選抜した。得られた2株について、単胞子分離を行い安定した低生産性変異株の確立を試みたが、不安定な生産性を示すのみであった。一方、炭素イオンビーム照射により凝乳活性低下変異株を分離した。凝乳活性低下の原因を明らかにするため、液体培養後の菌体内と菌体外の酵素活性を比較したところ、生産株及び凝乳活性低下変異株ともに、菌体内1に対し菌体外5の比であり、菌体外への酵素の分泌には異常がないことがわかった。
豊島 快幸*; 田中 寿基*; 赤川 巧*; 山崎 達夫*; 佐藤 勝也; 長谷 純宏; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 84, 2008/11
麹菌()は醤油,清酒,味噌などの醸造産業において利用される重要な微生物である。本研究では、麹菌育種の新しい手段としてイオンビームの利用を検討した。これまでに、セレン酸耐性変異株を51株取得した。セレン酸耐性にかかわる遺伝子領域のPCR解析を行ったところ、増幅の認められなかった株は11株であった。これらの株についてゲノミックサザン解析を行ったところ、親株に比べてバンドパターンが大きく異なっていた。このことから、イオンビーム照射により、遺伝子領域に大規模な欠損や転位,挿入などの構造変化が起きていることが予想された。これらの株の一つであるNo.11株の染色体構造について検討するためにパルスフィールド電気泳動を行った結果、泳動パターンが親株に比べて異なり、特に8番染色体が大規模に欠失していることが推察された。以上のことから、イオンビーム照射は、麹菌遺伝子の大規模な変異を生じさせ、かつ、染色体構造を大きく変化させることが可能であり、麹菌の新しい変異育種方法として有効であることが考えられた。
大庭 寛史; 佐藤 勝也; 菊地 正博; Sghaier, H.; 柳沢 忠*; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 57, 2008/11
放射線抵抗性細菌の放射線応答にかかわる新規調節因子として、PprIタンパク質が同定されている。PprIタンパク質はDNA修復促進タンパク質PprAの発現誘導にかかわっているが、PprIタンパク質が膜タンパク質であることから、PprAタンパク質の発現誘導を直接制御している訳ではないことが示唆された。そこで本研究では、PprIタンパク質による直接的制御を受けて、PprAタンパク質の発現を誘導する新規タンパク質を同定することとした。野生株と遺伝子破壊株のタンパク質プロファイル解析によって、遺伝子が同定された。遺伝子破壊株は線感受性であり、PprAタンパク質の発現誘導の制御が脱抑制されていた。われわれは、PprAタンパク質のモジュレーターの意から、この遺伝子産物をPprMタンパク質と命名した。本研究は、PprMタンパク質がPprAタンパク質の発現誘導制御機構に重要な役割を果たしており、放射線抵抗性細菌のPprIタンパク質に依存した独特な放射線応答機構に関与していることを強く示唆している。
高橋 真哉*; 中川 繭; 田中 淳; 鳴海 一成; 清水 喜久雄*; 坂本 綾子
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 58, 2008/11
植物の紫外線耐性機構の研究過程で、YファミリーDNAポリメラーゼをコードしている新規遺伝子を同定した。YファミリーDNAポリメラーゼは複製忠実度が低く、さまざまなDNA損傷をバイパスすると考えられている。遺伝子欠損植物は、紫外線やDNA架橋剤に感受性を示す。遺伝子産物であるAtREV1タンパク質の生化学的な機能を解析するために、組換え大腸菌を用いてAtREV1タンパク質を発現・精製し、精製したタンパク質を用いてデオキシヌクレオチド転移活性を調べた。その結果、AtREV1タンパク質は複製忠実度が低く、鋳型の塩基にかかわらず、dCMPを好んで挿入することがわかった。また、APサイトの相補鎖には塩基を挿入できるが、紫外線損傷塩基の相補鎖には塩基を挿入できなかった。AtREV1タンパク質の低い複製忠実度が突然変異を引き起こすかどうかを調べるために、野生株と遺伝子欠損株の突然変異頻度を測定した。その結果、AtREV1タンパク質が紫外線あるいは線で生じるDNA損傷の誤複製を起こすことで、突然変異誘発を促進していることがわかった。
吉原 亮平; 長谷 純宏; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 59, 2008/11
イオンビームで誘発される突然変異の特徴を解析するために、遺伝子導入シロイヌナズナを用いた突然変異解析システムを検討した。このシステムでは、シロイヌナズナのゲノムから遺伝子をプラスミドの形で回収し、このプラスミドを大腸菌に導入することによって、遺伝子に突然変異が起こったもののみを選別することができる。遺伝子導入シロイヌナズナの種子を220MeVの炭素イオンで140Gy、線で740Gy照射した。照射線量は、致死線量を指標にして、同一の効果を与える線量を設定した。線ではGAの塩基置換変異が最も高い頻度で見られたのに対して、炭素イオンではこの種類の変異がバックグラウンドと同程度であった。このことは、線と炭素イオンで生じるDNA損傷の質に違いがあることを示唆している。さらに、ブラックピーク領域の炭素イオンを照射した場合は、高い致死効果にもかかわらず、突然変異の頻度は予想以上に低いものであった。これは、ブラックピーク領域の炭素イオンのフルエンスの低さに起因した結果であると考えられた。
内村 要介*; 佐伯 由美*; 高田 衣子*; 長谷 純宏; 吉原 亮平; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 63, 2008/11
これまで、青枯病抵抗性ナス台木品種を短期間に育成する目的で、促成栽培の台木に適するが青枯病IV群菌に罹病性のヒラナスを供試し、その小胞子に炭素イオンビームを照射して突然変異を誘発した半数体倍加系統261個体を作出した。それらから、ポット栽培での青枯病接種試験で「よしきナス台2号」,「よしきナス台3号」の2系統を選抜した。本実験では、選抜した2系統について、青枯病の5つの菌群と多発圃場での抵抗性、さらに土壌病害の半枯病と半身萎凋病に対する抵抗性及び形態の観察を行って、実用性を評価した。選抜した2系統の青枯病抵抗性は、ヒラナスよりわずかな向上が示唆されるものの、現場に普及できるほどの強度な抵抗性はないことが明らかになった。強度の青枯病抵抗性を突然変異で作出するには、有用な変異が複数の青枯病に関与する遺伝子領域で必要と考えられ、突然変異体をさらに多く育成して選抜するか、繰り返しイオンビーム照射と抵抗性系統の選抜を行って変異を集積していく必要がある。
佐伯 由美*; 内村 要介*; 長谷 純宏; 吉原 亮平; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 64, 2008/11
ナスの萼や葉柄にあるトゲは、作業時に不快感があるので、トゲがない品種が望まれている。このため、種子及び小胞子へのイオンビーム照射を組合せ、トゲのない突然変異体の作出を図った。トゲの有無やその他の可視的な突然変異については、小胞子からの再生植物体の照射当代で、種子439個体のM2世代、1系統115個体ずつ、合計3,937個体で、第1花蕾まで調査した。小胞子からの再生植物体を調査した結果、トゲのない形質を持つ突然変異系統は得られなかった。その他の変異体として、葉脈,葉柄,茎の紫色素の欠失した変異体が0.5Gy照射区から1個体、本葉のビリディス(黄緑化)が1Gy照射区から1個体得られた。今後、トゲのない突然変異体を作出するためには、小胞子から大量に植物体を再生する技術のさらなる効率化や、カルスを経由せずに直接不定胚を形成させ、短期間に植物体を再生させる培養技術の開発が必要と考えられた。
飯塚 正英*; 吉原 亮平; 長谷 純宏
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 65, 2008/11
オステオスペルマムは、キク科の多年草で開花時期が長く、鉢物や花壇材料として生産が増加している。本研究では、イオンビーム照射で得られたオステオスペルマムの白色花弁変異体OM7に、もう一度イオンビームを照射して、完全な表裏白色花弁を誘導することを試みた。現在までに、再照射試料から1582個体が得られ、このうち花弁の色や形の変化を指標にして22個体を選別した。再照射によって、1回目の照射では得られなかった紫色の花弁を持つ個体や多弁変異個体が得られた。このことから、再照射は、色素合成や形態変異の経路に付加的な変異を与えていることが示唆された。花弁の色変化については明橙色になったものも得られている。また、オステオスペルマムの花弁は表と裏で色彩が異なるが、裏側が淡黄色に変化したものが見られた。現在、この裏側の花弁の色が薄くなった2系統について、さらなる解析を進めている。
岡村 正愛*; 清水 明*; 大西 昇*; 長谷 純宏; 吉原 亮平; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 62, 2008/11
本課題では、有用形質転換体へイオンビームを応用するシステムを開発することにより、さまざまな花色や形の品種をシリーズ化する手法を確立し、イオンビーム高度利用技術の開発に資することを目的とする。照射材料としては、分裂酵母由来の2本鎖RNA特異的RNA分解酵素()を導入することでキク発育阻害ウイロイド及びトマト黄化壊疽ウイルスに耐性を獲得した形質転換キクを用いた。これまでに炭素イオンビームの照射試験を実施し、順化,温室での栽培後、花色と花姿について調査した。照射によって得られた計832の個体について開花試験を行い、薄桃,濃桃,サーモン,白色,黄色などの花色変化を誘導できることを明らかにした。これらの結果から、この方法は、個々の遺伝子導入による従来法に比べて、低コストで高い品質の鑑賞植物の開発に有効であると考えられた。
竹之下 佳久*; 遠嶋 太志*; 西 裕之*; 白尾 吏*; 長谷 健*; 大江 正和*; 長谷 純宏; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 66, 2008/11
沖縄県久米島地域及び鹿児島県奄美地域を普及対象として育成されたサトウキビ品種「Ni17」は株出し適性が高く、耐風性も強い。しかし、葉鞘部に着生する毛群が粗剛であるため、収穫や栽苗等の作業に障害をきたしている。そこで、イオンビーム照射による突然変異誘発により毛群の少ない優良系統の育成を試みた。幼苗検定により初期選抜した188個体について、ほ場での毛群及び生育調査を行い、毛群が少なく生育の良好な有望個体30個体を選抜し、南西諸島の徳之島現地圃場の系統選抜試験に供試した。2年間の特性調査の結果、有望な系統「KB04-25」を選抜した。「KB04-25」は春植栽培において、毛群の発生が「Ni17」に比べて少なくなっており、収量面においては、茎径が細くなり1茎重は18%減少したものの、茎長が15cm長くなり、茎数が52%増加したために収量は19%増加した。茎の細茎化については風折抵抗性が低下することが想定されるため、今後検討が必要である。
近藤 正剛*; 小池 洋介*; 奥原 宏之*; 小田 正之*; 長谷 純宏; 吉原 亮平; 小林 仁*
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 67, 2008/11
ユリは、我が国における切り花の粗生産額でキク,バラについて第3位の地位を占め、球根出荷量でもチューリップに次ぐ第2位であり、園芸植物として重要な花卉である。新潟県農業総合研究所では、アグロバクテリウム法によるユリの形質転換系を確立し、花色改変による新品種の作出に取り組んでいる。遺伝子組み換えにより作出した植物を普及するためには、花粉の飛散による環境への遺伝子拡散を管理しなくてはならないため、雄性不稔であることが望ましい。そこで、ユリの不稔化を目的として、組織培養系とイオンビーム照射を組合せた突然変異育種による共同研究を進めている。テッポウユリ(品種:ホワイト阿賀)のカルスに、100MeVのヘリウムイオンビームを0から2Gy照射したものを育成し、葯の形態異常によって花粉が少ない10個体を選抜した。このうち、0.8Gy照射したものから得られた変異体は、葯が捻れて花粉が少ないほかは、ホワイト阿賀と同様の形質を示した。今後、この変異体について花粉の稔性を調査する予定である。
松尾 陽一郎*; 西嶋 茂宏*; 長谷 純宏; 坂本 綾子; 鳴海 一成; 清水 喜久雄*
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 60, 2008/11
本研究は、真核生物のモデル生物である出芽酵母を用いて、イオンビームで生じる突然変異誘発の分子機構を解明することを目的とする。今回、野生株とDNAグリコシラーゼ活性の欠損によって8オキソデオキシグアニン(8-oxodG)を除去できない変異株を用いて、5-フルオロオロト酸耐性を指標として取得した変異体を解析し、高LET炭素イオンビームによって生じる8-oxodGの突然変異誘発性を調べた。変異株の100Gy照射での変異の出現頻度は野生株の2倍であった。野生株では遺伝子に起こった突然変異のうちGT塩基置換が全体の41%を占めていたのに対して、変異株ではGT塩基置換が全体の70%を占めていた。野生株では塩基置換のほかに挿入変異や欠損変異が認められたのに対して、変異株では挿入変異や欠損変異が認められなかった。
茅根 俊平*; 徳弘 晃二*; 中坪 弘一*; 長谷 純宏; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 68, 2008/11
本研究ではデルフィニウム及びスターチスシヌアータの花色などにおいて特徴のある変異体獲得を目的としてイオンビーム照射を行った。カネコ種苗育成のデルフィニウム「7P」の培養体の葉身、及びスターチスシヌアータ「P08」の花穂の節をシャーレに置床し、約1週間後に炭素イオンビームを照射した。デルフィニウムでは、シュートの分化数が照射区で減少した。適正線量は0.51.0Gyと推測された。スターチスシヌアータでは、線量による生存率の差は小さかったが、線量が強くなるにつれ水浸状化及びシュートの分化がみられない節が多くみられた。適正線量は1.0Gy付近であると推測された。デルフィニウムでは再分化した174個体をポットへ移植し、また、スターチスシヌアータでは441個体を順化し、花色等の特性について調査する予定である。
古谷 規行*; 松村 篤*; 長谷 純宏; 吉原 亮平; 鳴海 一成
JAEA-Review 2008-055, JAEA Takasaki Annual Report 2007, P. 69, 2008/11
盆コギクは、仏花として出荷期が決まっているが、天候による開花変動が大きく、産地では危険分散のために多くの品種が作付けされている。こうした中、京都府では開花変動が少なく花色が赤紫色の「H13」を育成した。しかし、盆コギクとしては赤・白・黄の3色セットが望まれている。そこで、イオンビームを用いた突然変異育種法に取り組むこととした。「H13」からは花色が暗赤色,朱色,ピンク及び赤白混合色の変異体を得ることができた。また花弁が肥大した個体及び八重咲きの個体を選抜した。さらに「H13」の草型の改善点として指摘されていた、ひし形咲きからT字咲きの個体を選抜した。今後、花色や草型等の特性を調べ、二次選抜を行う予定である。また、さらに大きな変異を誘発させる目的で、一次選抜株に再度イオンビームを照射した。現在、育成した株をガラス温室内で栽培中であり今後、開花調査を実施する予定である。